医王堂通信
としろぐ

アトピーと産後の漢方薬

2015.8.24

先日、ご相談にいらした女性は当時高校生でした。10数年前に、アトピーでお困りで、漢方処方ですっかり良くなった方でした。
その後、皮膚は受験のストレスの時に少し痒くなったようですが、お薬を使わなくても特に困ることなく順調で、結婚されて妊娠し、無事に出産できたそうです。しかし出産は陣痛が長引き、なかなか赤ちゃんが出てきてくれなかったようで、産後2週間経過したけれども、ヘトヘトで母乳の出も悪く、動けないような状態でした。
高校生の当時、「出産時には気をつけてね。何かあったら漢方薬は妊娠中でも産後でもいっぱいフォローができるから。」と言っておいてことを覚えてくださっていたらしく、お母様と急いでいらっしゃいました。
アトピーのときに使っていた処方が、私の好きな補う漢方処方の当帰建中湯。お腹を温め、力をつけ、血液を増し、皮膚を潤すために使いました。この処方はじつは本来は産後に使う処方です。
出産後は血液を失い、汗もかき、消耗が激しいので、様々なものが足りなくなっているから、それらを補ってあげれば、しっかり母乳も出て、元気に子育てができるということが、金匱要略という漢方薬の古書に書かれています。
それを応用して、アトピー性皮膚炎に使っているということです。しかし、数千年も前の漢方の古書には、現代医学の病名である「アトピー性皮膚炎」などと書かれているわけはありません。同じような状況、状態だから効くわけです。
「当帰建中湯=アトピーが治るお薬」ではありません。
漢方は面白いです。病名にこだわり過ぎると、治せない理由がわかります。漢方といえども、決めつけないで柔軟に原因を考えないといけませんね。
医療者とはコミュニケーションが重要です。

ハイデルベルク城 ドイツ薬事博物館