医王堂通信
としろぐ

葛根湯は風邪薬?

2023.11.29

葛根湯はみなさんがご存知のように風邪薬?です。

中国から伝わった傷寒論、金匱要略という東洋医学・漢方医学の原点ともいうべき古書があります。
その本に書かれている処方で、そこにはこう書いてあります。
(代表的な条文を簡単に書きます。)

「葛根湯」 葛根 麻黄 桂枝 生姜 甘草 芍薬 大棗
「太陽病、項背強几几、無汗悪風、葛根湯主之」(太陽中)

太陽のあたるところの病、(つまり皮膚、特に頭から肩、うなじ、背中にかけて) 簡単に説明すると、風邪のひき始めで、頭痛、発熱、悪寒して、首筋や肩が凝り、汗が出ていなくて、風にあたると気持が悪く、皮膚がぞくぞくする時には葛根湯がいいですよと書いてあります。風邪の初期症状全般の症状です。

風邪の「初期」とは、ひきはじめから2~3日くらいまでです。風邪の初期の発熱時の治療法は、身体を温めて汗を出して熱を下げます。葛根湯はその手伝いをしてくれます。葛根湯には上記のように「麻黄・桂皮」が入っていますので、この薬草の組み合わせは、発汗作用を現わします。発熱時で発汗していないときに服用し、発汗して解熱させようという処方なのです。傷寒論にはじとじとと発汗するまで2~3時間おきに服用するべしと書かれています。しかし、すでに汗をかいている人(高熱ではない)にあげてしまうともっと発汗してしまい、逆に冷えたり、筋肉がひきつったり、弱ってしまい風邪を体の奥に押し込んでしまうことがありますのでご注意ください。また夏は汗をかきやすいため、同じように発汗し過ぎに注意しましょう。

高齢者や胃腸の弱い人や食欲が落ちている時、舌に白いコケが出ている場合は葛根湯が負担になることがあります。虚弱な方にはおだやかな処方(桂枝湯、桂枝加葛根湯)を使います。おだやかな処方になるため、これらの処方を服用した後に温かいおかゆを服用して温める効果を高めなさいと傷寒論に書かれています。

発熱が峠を越え微熱になったり、3~4日たっている場合はすでに風邪の初期ではないので発汗させる時期を過ぎています。風邪の中期にさしかかり鼻水や咳、胃腸症状が残った場合はそれなりの処方を選びます。「風邪を引いたかな?ちょっとさむいな」と思った時、すぐに自分にあった風邪の初期のお薬を飲めば、慣れてくると1~2服で治すことが可能です。

養生も重要です。風邪の初期は入浴や冷たい食べ物飲み物をひかえ、栄養をつけようとはせず、おかゆに梅干くらいにし温かくして寝ていたほうが治りは早いです。 このように誰でも「風邪には葛根湯」ということではありません。正しい使い方をしないと本来の効果を発揮できませんので、ご注意ください。状況に応じ正しく漢方薬を選べば、十分効きますので解熱剤や抗生剤、咳止め、鼻水止めを併用しなくて大丈夫です。西洋医学と東洋医学の治療法を両方使う必要はありません。

気をつけないと。。。

※注意 ドラッグストアで販売している葛根湯の中には咳止めや解熱剤を配合してある製品があります。純粋な漢方薬でないと風邪の状況に合わせて服用するという漢方薬本来の使いかたはできませんご注意下さい。

葛根湯は新型コロナやインフルエンザなど風邪全般に使いますが、他の症状にも使います。肩こりからくる頭痛や腰痛、五十肩、授乳中の乳腺炎や、扁桃腺炎、中耳炎、副鼻腔炎、蜂刺されにも使われます。ただしからだに合っているのかどうかが大切です。

ではなぜ肩こりに効くのでしょう?葛根(かっこん)と書いてありますが、葛湯の材料です。これは公園などでよく見かけるマメ科の葛(くず)の根です。生息している所をよく見ると横に伸びていく植物で、根はすごく繊維だらけで筋張っています。植物のかたちや色はその性質を現わします。葛の根はまるで筋肉繊維のようです。つまり肩こりなど筋肉が凝りかたまっている状態を緩めてくれる作用があります。それにくず粉はデンプンです。母乳の出が悪いときにも使われました。昔の人はよく気がつきましたね。風邪っぽいときに葛根湯がなければ生姜配合のくず湯(本葛+生姜)でも効果は弱いですが効くはずです。お試しください。現在、咳止めや解熱剤など不足の状況が続いています。また咳止めでも効かない咳は漢方薬の得意分野です。

  • 麻黄(西洋医学の咳止めのもと)
  • 桂枝(シナモン)
  • 生姜(ひね生姜)
  • 甘草(グリチルリチン酸のもと)
  • 芍薬(たるみを引きしめて痛みを除く)
  • 大棗(なつめ)

漢方薬には手軽に服用できるインスタントのエキス剤と、ご自分でつくる本物の煎じ薬があります。効果はまるで違います。漢方薬が効かないという事はありえません。もし効かないと思われるのであれば、処方がその時の状況にあっていないか、もしくは処方の質が良くないことが考えられます。病気の治療には、病状の把握が一番です。専門家でも学び経験し腕を上げるには長い時間が必要です。お困りのことがございましたら、ご相談ください。

  • アトピーには○○○湯が効きます。
  • 更年期障害にはこの処方が。。。
  • 通信販売で売ってしまう漢方薬。

このように病名を目標にして使われる漢方には気をつけましょう。ひとのからだも病気も人それぞれです。よくみられるコメントですが、鵜呑みにしないようにしましょう。

としお

「麻黄」武田薬品 京都薬用植物園にて 黄色いのは花です、麻黄は多種あり選別が難しいようです。赤い花も見たことがあります。

「桂皮」栃本天海堂倉庫にて